黄金の国 ジパング|日本の金山・金鉱山の歴史や埋蔵量
唯一無二の美しい輝きを持つ金は、古代から人類を魅了し続けてきた貴金属です。
日本でも、各地の金山で金鉱石が産出されていたことをご存じでしょうか。
鉱量の枯渇により閉山されたところが多いものの、いまだに現役で金を産出している金鉱山もあり、日々採掘が行われています。
今回は「黄金の国 ジパング」と呼ばれた日本の金山の歴史や金の埋蔵量についてご紹介します。
近代日本を支えた金山
かつて日本には多くの金山があり、金を産出してきました。これから紹介する3つの金山は現在は閉山していますが、日本の金鉱山史において一時代を築いた金山です。
佐渡金山
日本の金山で最も有名なのは、新潟県の佐渡島にある「佐渡金山」でしょう。
発見されたのは日本の行く末を決めた「関ヶ原の戦い」の翌年1601年で、徳川家康の所領となりました。それから250年余りのあいだ、江戸幕府の重要な財源であり続けました。
労働者の賃金は高水準でしたが、鉱山での労働は楽なものではありませんでした。特に鉱山に溜まった水を外部に排水する「水替人足(みずかえにんそく)」の仕事は過酷で、「佐渡の金山この世の地獄、登る梯子はみな剣」と謳われたほどでした。江戸時代後期にはおよそ1,800人の浮浪者や罪人が、江戸から佐渡へ強制連行されたといわれています。
佐渡金山の金は江戸時代が終わってからも尽きることはなく、開山から約400年間、元号が平成に変わった1989年まで採掘が続けられました。掘られた坑道の総延長は400㎞にもなり、閉山までに産出されたのは「金83トン、銀2,300トン」です。これは日本の金山で菱刈金山に次ぐ、第二位の実績です。
現在は史跡として整備され、坑道の一部などを見学できるほか、金箔貼り体験などを行うことができます。
鴻之舞金山
北海道の紋別市にある「鴻之舞(こうのまい)金山」も1915年に鉱床が発見されてから1973年の閉山まで、「金73トン、銀1,234トン」を産出した日本で第三位の実績を持つ金山です。1917年に住友金属鉱山が経営権を得ました。
鉱山の発展と共に、労働者とその家族の居住区が地域に形成され、1915年当時は5,000人ほどだった紋別市の人口は最盛期の1942年には20,000人を超えるまでに膨れ上がりました。
しかし1943年に戦争の産業統制で「金は不要不急の鉱物」とされ、鉱山労働者の多くが徴兵されたため、操業に支障をきたすようになりました。
第二世界大戦後の1948年に操業は再開されましたが金価格の低下と鉱物資源の枯渇により、1973年に閉山が決まりました。
現在は発電所やコンクリート製の住居などが遺構として残され、林の中に散見されます。
鯛生金山
大分県日田市中津江村の「鯛生(たいお)金山」も、最盛期には佐渡金山を凌ぐ年間2.3トンもの金を産出した日本有数の金山です。
1984年に行商人が拾った金を含む白い石(含金銀石英)がきっかけとなり金鉱脈が発見され、1898年から採掘が始められました。
1918年からはイギリス人のハンス・ハンター氏により近代的な採掘が始められ海外からも多くの人が集まり「東洋のエルドラド(黄金郷)」と呼ばれました。1938年には年間産出量が佐渡金山を超え、日本最大の金山となりましたが、1943年に日本全国の金鉱山に影響を与えた「金鉱山整備令」によって一時生産停止に陥ります。
この「金鉱山整備令」は、戦争下において軍需資材を優先とする政策で、これにより金鉱山は軒並み縮小され、代わりに「銅鉱山や炭鉱」など国にとって重要鉱物を産出する鉱山に設備が充てられました。
その後1956年に鯛生鉱業K.K(住友金属鉱山の子会社)によって操業が再開され、1972年に資源枯渇のため閉山が決まりました。
2007年には経済産業省によって近代化産業遺産に認定され、現在は地底博物館の形で当時の様子を見学できる他、砂金採り体験も行うことができます。
黄金の国ジパングの意味とは
ヴェネツィア共和国の商人であり冒険家でもあるマルコ・ポーロは『東方見聞録』を記しました。
その中で、日本のことを「黄金で溢れかえっており、宮殿や民家は黄金でできている」「大量の金が産出される国だ」と紹介したのです。このことがヨーロッパを中心に「黄金の国ジパング」と広く呼ばれるようになった理由だといわれています。
では、なぜマルコ・ポーロは当時の日本をそのように評価したのでしょうか。
東方見聞録とは
マルコ・ポーロが、1271年からおよそ24年にも渡ってトルコ、モンゴル、中国方面を旅しながら見聞した内容をまとめた旅行記です。
世界的に大変有名ですが、原本は残っておらず異本がいくつも作られてきたといわれています。
東方見聞録で紹介された日本の姿
日本について「中国大陸の東、1,500マイル先に浮かぶ独立した島国」と定義し、「住人たちは大量の金を所有しており、国王の宮殿は窓や床に至るまですべて純金でできている」と紹介されています。
また、日本の周辺の宗教や風俗についても触れられており、仏教のことや埋葬の習慣についても記述があります。
さらに、日本では食人の習慣があり「彼らは人肉を他の肉より優れはるかに味が良いと言っている」などという信じがたい表現も見られます。
しかし、マルコ・ポーロが日本を訪れたことは一度もありませんでした。このような記述は、中国の商人などが語った日本の様子や噂話をマルコ・ポーロが口述して、後に共同著者であるイタリア人の小説家、ルスティケロ・ダ・ピサが他の伝聞や逸話を盛り込んで書き綴ったとされているため、実態とはかなりかけ離れた内容となっているのです。
当のマルコ・ポーロが日本へ上陸しなかったのは、このような誤った食人文化の情報を信じ、恐れていたからだという説もあります。
東方見聞録で描かれた黄金の宮殿とは
ここで、中国の商人たちが日本を「黄金に溢れた国」だと考えていた理由についても考えてみましょう。
『東方見聞録』に出てくる金でできた宮殿とは、平安時代後期の1124年、岩手県平泉に建てられた「中尊寺金色堂」だといわれています。当時「奥州」と呼ばれていた東北地方では、砂金を豊富に採掘していました。
後に源平合戦で活躍する源義経を庇護したことでも知られる奥州の豪族藤原氏が、その豊富に採れる砂金をふんだんに使用して、天井や壁一面を金箔貼りにした豪華絢爛な造りで建立したのが中尊寺金色堂です。藤原氏は国内では朝廷に莫大な量の金を献上して勢力を拡大しつつも、独自に宋(当時の中国)との間でも盛んに交易を行い富を蓄えていきます。
金の宮殿の話も、貿易上繋がりの深かった中国の商人からマルコ・ポーロへと伝わっていったとみられているのです。
黄金の国には佐渡金山も関係している説がある
日本が黄金の国であると長く言い伝えられてきた理由には、当コラム二項目にて紹介した「佐渡金山」が関係しているという説もあります。
佐渡金山は江戸から平成元年の閉鎖まで、約390年の長きにわたって採掘された日本で最も大きな金鉱山です。最盛期に産出された金は年間400kgと世界的にも大量の金が採掘され、当時鎖国をしていた日本とヨーロッパ諸国の貿易に活用されていました。
一方、採掘していた時期よりも450年以上後の時代に採掘が始まった金鉱山なので、中尊寺金色堂に使われた金は一見関係ないように思われます。
しかし、佐渡金山で採掘された大量の金を流通させる日本と『東方見聞録』が記されたころに中国商人たちが広めていた黄金の溢れる国のイメージと重なったことで、再び日本が黄金の国だと思われるようになったのです。
現代日本の金山
金は自然資源ですから、埋蔵量には限りがあります。今までご紹介した金山は金が取り尽くされたためにすでに閉鎖されていますが、国内で唯一、現在も商業規模の採掘が行われている金山があります。
それがこれからご紹介する鹿児島県の「菱刈(ひしかり)金山」です。
菱刈金山
日本は多くの金鉱山があり、世界でまだ金の産出量が少なかった時代から大量の金を採掘し、国内で活用するとともに交易を通して流通させてきたことで、世界から「黄金の国」として広く知られるようになりました。
しかし、金を掘り尽くしてしまったことでほとんどの金鉱山が閉山となります。現在国内で唯一残っているのが鹿児島県の菱刈鉱山のみとなっており、日本国内の産金量の9割以上を占めています。
菱刈町は江戸時代から金の産地であり、1960年代中頃から金属鉱業事業団が金鉱調査を行っていました。金の鉱脈が発見されたのは1981年のことです。
1997年には金山の累計産金量が国内トップとなる83トンになり、その産金量は2020年3月末時点で248トンにまで達しています。
菱刈金山の金の推定埋蔵量は250トンとされていますが、2012年には埋蔵量30トンの新たな金鉱脈が発見されました。探鉱は継続的に行われているため、今後さらなる金鉱脈が発見される可能性もゼロではありません。
また菱刈金山の金鉱石は非常に高品位であることが知られています。
通常の金鉱石は取れる金の量が1トンあたり3グラムほどなのに対し、菱刈金山の金鉱石は1トンあたり30~40グラムもの金を含んでいます。
世界の金産出量
世界に目を向けてみると、現在最も金の産出量が多いのは、年間およそ400トンを産出する中国です。これに300トンあまりを産出するオーストラリア、ロシアが続きます。
日本最大の菱刈金山が年間6トン、かつて日本最大の金山だった佐渡金山ですら400年あまりで83トンの産出量ですので、世界的に見ると日本の金産出量はわずかです。
しかし、日本近海の海底には手つかずの金脈が眠っているともいわれています。技術が進歩し、海底にある鉱床の開発が進めば、マルコ・ポーロが描いた「黄金の国ジパング」のように、日本が金の産出国として知られる日がやってくるのかもしれません。
世界各国の金産出についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
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今も昔も貴重な資源であり、豊かさの象徴でもある金。
すでに閉じられた金山や鉱山は観光できるところも多く、佐渡金山では江戸時代に手で掘られた坑道なども見学でき、鯛生金山では砂金採取の体験が行えます。
日本における金山を知ることは、日本の歴史を理解する上でも有意義なことではないでしょうか。
かつては黄金に溢れた国と呼ばれた日本ですが、残念ながら近年の金の産出量はごくわずかとなっています。また世界的にもその勢いは衰えています。
はるか昔の時代から今も変わらない価値を持ち続けている金は、人の手で作り出すことができず、自然の恵みだからこそ、今後もさらにその価値は高まっていくかもしれません。限りある資源だからこそ大事にしていきたいですね。
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